相続手続き

相続手続きで食えるか

相続手続きを取り扱う信託銀行、他の士業との競合と実際

全国の行政書士数約4万2千人、弁護士約3万人、税理士約7万2千人、司法書士約1万9千人、公認会計士約2万3千人で、この士業登録者数合計約18万6千人強である。兼業者を除いて相続を取り扱う士業者が約10万人と仮定する。国税庁の発表で相続税の申告件数が年5万件、相続税を納める件数が年1万件である。年間死亡者数が約119万人で、持家数が2008年で3千万棟であるから、人口が1億2千万人とすると4人に1人が持家である。従って年間の成人死亡数を百万人と仮定し、相続手続きが必要な件数は持家の死亡者と同数と見て25万件と推定する。5万件の申告件数を専門家に依頼する相続手続き件数と考えると、約20万件は相続人が自分たちで手続きを行い、司法書士に登記のみを依頼して、その他の高額遺産の相続手続きは信託銀行がかなり多く取り扱っている。因みに、信託協会の発表では、昨年9月末時点での遺言信託件数は7万3千件である。しかも、中小企業の経営者の殆どは税理士に相続手続きを依頼するであろう。そのように考えると行政書士の相続業務はかなり縮小されてくる。一人平均4年に1件位であろうが、この推定も行政書士にとって甘く考えてのことである。一つの行政書士事務所が、10年間で50件の相続手続きを取り扱うことなどは、よほど手数料を低く抑えるか超人を除いてあり得ないことになる。実際、歴史ある行政書士事務所で相続業務を専門としている行政書士は少ない。しかし、ネット上で相続手続きを宣伝している者が多く、ほとんどが登録1年から5年の行政書士である。新人行政書士の業務の獲得と業務知識について危惧の念を抱くのである。

行政書士の無料相談会を開くと相続の相談が圧倒的に多いことは事実であるが、相続の無料相談が多いことと行政書士としての相続手続き業務が多い事とは別のことと考えなければならない。相続人が自分で手続きをとり事務処理の情報を収集するために無料相談を利用していると考えた方が的確かも知れない。最近の行政書士登録者の中で相続業務によって成功している行政書士はまず存在しないであろう。数少ない歴史のある一部行政書士事務所のみが相続を専門に業として成り立っているのが現実であることを知らなければならない。相続手続きの行政書士業務には注意を払わなければならないことが多くある。特に遺産分割協議に参加すれば非弁活動に成る。

相続人の一人に依頼され他の相続人にメッセンジャーとして赴いても行政書士であれば代理したとみなされ違法である。

 (秘)転写禁止

 ■ 相続手続きにおける行政書士が禁止される具体的行為

(1)片方の代理人になること(2)双方代理の禁止から相続人全員の代理人にも無論なれない。(3)書類作成代理人なら全員の代理人になれるとの説があるが、「書類作成代理人」と言う概念は理論上矛盾で、存在しない。さらに、書類作成は事実行為で法律行為では無いから、双方代理の規定の問題は論ずる余地もない。(4)相続人のメッセンジャーになること。代理と誤解をされるから禁止である。(5)依頼人とは別の相続人に電話をして協議書に捺印を促がすこと。(6)一人の相続人の代弁をすること。(7)相続人を訪問し捺印を求めること。但し、協議内容が確定しているときは訪問して良い場合がある。(8)委任状をもらうこと(貰うべきは委任状ではなく委託書である)。(9)仲裁する行為又は法律の鑑定をすること。(10)その他、相続人に対する説得或いは交渉をしていると誤解を受ける行為。

以上、簡単に流れを記載して、行うべきこと、やってはならないことを列挙した。このように、行政書士は事件屋ではなく、代書人としての誇りを持って業務を行うべきである。

 

■ 相続手続に必要な知識

(初級)

「印鑑証明書は何部取ればよいか、ケースバイケースの解答不可、具体的に」

「遺産分割協議書添付の印鑑証明書の有効期限は(三か月ではない)」

「遺産分割協議書は何通作成すべきか」

「遺産分割協議書に捺印をもらう時に必ず捺印をもらわなければならない別の書類は何か」

「被相続人の何歳からの原戸籍を取り寄せ、それを正確に読めるか、整理の方法は」

「住所の分からない相続人の探し方を理解しているか」

「相続不動産登記の必要書類は(登記は司法書士であるが登記の為の必要書類は行政書士がアドバイス要)」

「相続関係説明図を正確に作成できるか」

「生命保険が相続財産になる場合とならない場合があるがその相違を説明できるか」

「相続の放棄と相続分の放棄があるが、その相違と其々の手続きを理解しているか」

「寝たきり老人の遺言はどのように進めるか」

「遺言公正証書の後に自筆遺言証書を作成したがどちらが優先されるか、正確に説明できるか」

「自筆遺言証書の日付が平成二十三年二月吉日としてある場合と日付が平成二十三年二月二十九日となっているものがある其々の有効無効は」

「相続放棄の熟慮期間は民法の規定では、相続人が相続の開始を知ったときから三か月以内であるが、それが全てか、判例は」

「相続税の申告期限は」

「遺産分割協議書の捺印が不鮮明な場合の法的効果と問題点は」

 

(中級)「みなし相続財産の民法と税法の相違は」

「各遺産の評価方法を理解しているか。固定資産税の評価でもなく資産税(相続税)の評価でもない。時価には再調達価額と正味実現可能価額があるが、それのどちらを用いるべきか、その根拠は、その評価方法は。」

「遺産分割協議書の作成について司法書士等と異なる行政書士の予防法務専門家としての固有の作成ノウハウを理解しているか」

「外国に在住する相続人は印鑑証明の代わりにサイン証明を取ることがあるがサイン証明より優れている方法が二つあるが何と何か」

「相続税法上の相続財産と民法上相続財産の相違は」

 

(上級)「危急時遺言は裁判所に確認を求めるが裁判所の具体的確認とはどのように進められるのか,従ってその注意すべき点は」

「遺産分割協議において遺産の評価を誤認した場合の合意の法的効果は、判例は。」

「自分が死んだら妻に家を与えると自筆遺言証書を作成して亡くなったが要式を欠き遺言が無効である場合のその後の妻の法的立場は、判例は」

「相続税の概算計算ができるか(参考として概算計算し必ず税理士に相談確認するよう勧めること。税額はこれですと確定したことを言わないこと。申告書作成のアドバイスをしないで税理士を紹介)」

 

以上は、法律的解釈をすることは難しい事ではありませんが、法律理論と本に書いてない実務の相違を理解することが難しいのです。(裏技)

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